Scene 112 · Notes

解説 場面 112「西へ行く車窓」

この場面の解説

列車は豊かなデヴォンの景色へ入り、ヘンリー卿は故郷を喜ぶ。医師の頭骨についての議論に続き、卿は館そのものは初めて見るのだと明かす。

表現・文法のポイント

swear by his county
故郷の州を絶対によいものと認め、信頼する言い方。ここではワトソンがデヴォンシャーの人の郷土愛を軽く評する。
in my teens
十三歳から十九歳までの十代の時期。ヘンリー卿は父の死後にアメリカへ行き、館はまだ見たことがないと説明する。

背景・時代

Celt / Gaelic / Ivernian
頭骨と民族の性質を結びつけるのは、モーティマーの当時の見方である。訳では語の関係を保つが、出自から性格が決まるという現代の科学的な説明としては扱わない。

全文の対訳

The journey was a swift and pleasant one, and I spent it in making the more intimate acquaintance of my two companions and in playing with Dr. Mortimer's spaniel. In a very few hours the brown earth had become ruddy, the brick had changed to granite, and red cows grazed in well-hedged fields where the lush grasses and more luxuriant vegetation spoke of a richer, if a damper, climate. Young Baskerville stared eagerly out of the window and cried aloud with delight as he recognized the familiar features of the Devon scenery.

旅は速く快適で、私は二人の同行者とさらに親しくなり、モーティマー医師のスパニエルと遊びながら過ごした。ほんの数時間で、茶色の土は赤みを帯び、煉瓦は花崗岩へ変わり、生け垣を巡らせた野原では赤褐色の牛が草を食んでいた。茂った草とさらに豊かな植物は、より湿っているとはいえ、より恵まれた気候を物語っていた。若いヘンリー卿は熱心に窓の外を見つめ、デヴォンの懐かしい景色の特徴に気づくと、喜びの声を上げた。

"I've been over a good part of the world since I left it, Dr. Watson," said he; "but I have never seen a place to compare with it."

「ワトソン先生、ここを離れてから世界のかなりの部分を回りましたが、比べられる場所は見たことがありません」と彼は言った。

"I never saw a Devonshire man who did not swear by his county," I remarked.

「故郷を最高だと言わないデヴォンシャーの人に、会ったことがありません」と私は言った。

"It depends upon the breed of men quite as much as on the county," said Dr. Mortimer. "A glance at our friend here reveals the rounded head of the Celt, which carries inside it the Celtic enthusiasm and power of attachment. Poor Sir Charles's head was of a very rare type, half Gaelic, half Ivernian in its characteristics. But you were very young when you last saw Baskerville Hall, were you not?"

「地方そのものと同じくらい、人の血筋によります」とモーティマー医師は言った。「こちらの友人を一目見れば、ケルト人の丸い頭が分かります。その内にはケルト人の熱意と愛着の強さがあるのです。亡くなったチャールズ卿の頭は非常に珍しい型で、半分ゲール系、半分アイルランド古来の系統の特徴がありました。ですが、前にバスカヴィル館を見た時は、たいそうお若かったのでは?」

"I was a boy in my teens at the time of my father's death and had never seen the Hall, for he lived in a little cottage on the South Coast. Thence I went straight to a friend in America. I tell you it is all as new to me as it is to Dr. Watson, and I'm as keen as possible to see the moor."

「父が死んだ時は十代の少年で、館は一度も見たことがありません。父は南海岸の小さな家に住んでいましたから。そこからまっすぐアメリカの友人の所へ行きました。つまり、僕にとってもワトソン先生と同じくらい初めてで、荒れ地を見るのが楽しみでたまりません」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • swift(スウィフト)… 素早い・迅速な難
  • ivernian(アイヴァーニアン)… 古代アイルランド人系の(当時の分類語)難
  • characteristics(キャラクタリスティックス)… 特徴(characteristic の複数形)
  • acquaintance(アクウェインタンス)… 知り合うこと(make the acquaintance of で「〜と知り合う」)・知人
  • well-hedged(ウェルヘッジド)… 生け垣を巡らせた
  • companions(カンパニオンズ)… 仲間・連れ(companion の複数形)
  • vegetation(ヴェジテイション)… 植物・草木
  • enthusiasm(エンスーズィアズム)… 熱意・熱中

次の場面:遠くの丘 The Distant Hill

ヘンリー卿は、初めて見る館と荒れ地に強い関心を向けている。列車の外には、ロンドンとは違う畑や森の景色が続いている。モーティマーは土地を知る同行者として、窓の外へ注意を促そうとしている。車内の会話と、旅先の風景が近づいていく。