Scene 20 · Notes

解説 場面 20「髪を引っぱる」

この場面の解説

小男は念のためと言ってウィルソンの髪を力いっぱい引っぱり、本物の赤毛だと確かめる。かつらや染料でだまされたことがあるのだという。男が窓から空きは埋まったと叫ぶと、集まっていた赤毛の群れは散っていった。

表現・文法のポイント

It would be injustice to hesitate
「ためらうのは不当だろう」。would は仮定の気持ちで、「(これほどの髪を前に)迷ったりしたら、あなたに対して不公平だ」という意味。大げさで芝居がかったほめ言葉だ。
You will, however, I am sure, excuse me
骨組みは You will excuse me(お許しくださいますね)で、間に however(とはいえ)と I am sure(きっと)が挟まっている。断られない前提で、丁寧に念を押す言い方だ。
There is water in your eyes
water はここでは「涙」。tears と言わずに water と言うことで、痛くて目がうるんだのを、事務的に確かめているような響きになる。本物の髪なら引っぱられて痛いはずだ、という確認だ。
at the top of his voice
「声をかぎりに、大声で」。top は「最高の程度」の意味。at the top of one's lungs とも言う。窓の外の群衆全員に聞こえるよう、大声で知らせたということ。

背景・時代

靴屋の蝋(cobbler's wax)
靴屋が縫い糸を丈夫にするために使った、松やにの入った黒っぽい蝋。にせの髪を貼りつけたり、色をごまかしたりする細工に使われたことをほのめかしている。

全文の対訳

"'It would be injustice to hesitate,' said he. 'You will, however, I am sure, excuse me for taking an obvious precaution.' With that he seized my hair in both his hands, and tugged until I yelled with the pain. 'There is water in your eyes,' said he as he released me. 'I perceive that all is as it should be. But we have to be careful, for we have twice been deceived by wigs and once by paint. I could tell you tales of cobbler's wax which would disgust you with human nature.' He stepped over to the window and shouted through it at the top of his voice that the vacancy was filled. A groan of disappointment came up from below, and the folk all trooped away in different directions until there was not a red-head to be seen except my own and that of the manager.

「『迷ったりしては、かえってあなたに失礼というものです』と男は言いました。『とはいえ、当然の用心をさせていただくのは、きっとお許しいただけますな』そう言うなり、男は両手で私の髪をつかみ、私が痛さに悲鳴を上げるまで引っぱったんです。『目に涙が浮かんでいますな』と、私を放しながら男は言いました。『どうやら、すべて申し分ないようだ。しかし、用心しなくてはならんのです、なにしろ二度はかつらに、一度は染料にだまされていますからな。靴屋の蝋を使った手口の話でもしようものなら、人間というものに愛想が尽きますよ』男は窓のところへ行き、空きは埋まったと、声をかぎりに外へ叫びました。下からはがっかりしたうめき声が上がり、人々はぞろぞろと散っていって、しまいには私と支配人の頭のほかに、赤い頭はひとつも見当たらなくなりました。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • cobbler's(コブラーズ)… 靴屋の・靴直しの(cobbler の所有格)難
  • trooped(トループト)… ぞろぞろと歩いた(troop の過去形)難
  • disappointment(ディサポイントメント)… 失望・落胆
  • precaution(プリコーション)… 用心・予防策
  • injustice(インジャスティス)… 不当・不公平
  • hesitate(ヘズィテイト)… ためらう
  • released(リリースト)… 放した・解放した(release の過去形)
  • perceive()…

次の場面:独身ではだめ? No Family?

本物の赤毛と認められたウィルソンに、小柄な支配人はダンカン・ロスと名乗る。自分も、組合を遺した恩人の基金から年金を受ける一人だという。ところが、結婚しているか、家族はいるかと尋ね、ウィルソンが独り身だと知ると、ロスはとたんに顔を曇らせ、これはゆゆしいことだと言い出す。