Scene 33 · Notes

解説 場面 33「損はしていない」

この場面の解説

週四ポンドを失ったと嘆くウィルソンに、ホームズは、むしろ三十ポンドほど得をし、Aの項目の知識まで身につけたのだから損はしていないと指摘する。ウィルソンは、それでも相手の正体といたずらの目的を知りたいと言う。

表現・文法のポイント

Grave enough!
直前のホームズの graver issues「もっと重大な問題」を受けて、grave を「重大ですとも!」と言い返したもの。enough は形容詞の後ろに置いて「十分に」。ウィルソンにとっては週四ポンドの損こそが重大で、ホームズとの関心のずれが表れている。
to say nothing of the minute knowledge
to say nothing of ~ は「~は言うまでもなく」で、not to mention と同じ。minute はここでは形容詞で「細かい、詳しい」。発音はマイニュートで、名詞の「分」(ミニット)とは読みが違う。
two and thirty pounds
thirty-two(三十二)の古風な言い方。一の位を先に言う数え方は、昔の英語やドイツ語に見られる。週四ポンドの八週分で三十二ポンド、という計算だ。ホームズの言う「三十ポンドほど」は、紙やインクの費用を差し引いた額だろう。

背景・時代

ポンドの価値(pound)
1890年ごろ、事務員の年収は百ポンド前後と言われ、週四ポンド(年に二百ポンド余り)は破格の給料だった。ウィルソンの four pound は、口語で複数の s を省いた言い方。

全文の対訳

"Grave enough!" said Mr. Jabez Wilson. "Why, I have lost four pound a week."

「重大ですとも!」とジェイベズ・ウィルソン氏は言った。「なにしろ、週に四ポンドもなくしたんですからね」

"As far as you are personally concerned," remarked Holmes, "I do not see that you have any grievance against this extraordinary league. On the contrary, you are, as I understand, richer by some £ 30, to say nothing of the minute knowledge which you have gained on every subject which comes under the letter A. You have lost nothing by them."

「あなた個人に関して言えば」とホームズは言った。「この風変わりな組合に文句をつける筋合いはないと思うがね。それどころか、聞いたところでは、あなたは三十ポンドほど懐が豊かになったうえに、Aで始まるあらゆる項目について、細かな知識まで身につけたことになる。彼らのせいで損をしたことは何もないのだよ」

"No, sir. But I want to find out about them, and who they are, and what their object was in playing this prank—if it was a prank—upon me. It was a pretty expensive joke for them, for it cost them two and thirty pounds."

「ええ、それはそうです。でも、あの連中のことを突きとめたいんですよ、何者なのか、そして、なんのつもりで私にこんないたずらを――いたずらだとしての話ですが――仕掛けたのかをね。連中にしてみれば、ずいぶん高くついた冗談ですよ、なにしろ三十二ポンドもかかったんですから」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • grievance(グリーヴァンス)… 不満の種・苦情難
  • extraordinary(イクストローディナリー)… 並外れた
  • personally(パーソナリー)… 個人的に・自分としては・本人が
  • concerned(コンサーンド)… 関係している(as far as 〜 is concerned で〜に関する限り)・心配して
  • knowledge(ノリッジ)… 知識
  • remarked(リマークト)… 言った・述べた
  • contrary(コントラリー)… 反対・逆。on the contrary で「それどころか」
  • subject(サブジェクト)… 話題・題材・科目・主語

次の場面:助手について About the Assistant

ホームズは、ウィルソンが少しも損をしていないと指摘しつつ、謎の組合のことを解き明かすよう努めると言う。そして、まず一つ二つ質問をしたいと切り出す。ホームズが目を向けたのは、組合の広告そのものではなく、その広告をウィルソンに見せた人物のほうだった。