Scene 38 · Notes

解説 場面 38「パイプ三服の問題」

この場面の解説

ホームズは「パイプ三服ぶんの問題だ」と言い、椅子の上で体を丸めて黙って考え込む。ワトソンもうとうとし始めたころ、ホームズは急に跳び起き、午後のサラサーテの演奏会に行かないかと誘う。

表現・文法のポイント

It is quite a three pipe problem
パイプを三服吸うあいだ考え抜かないと解けない問題、というホームズ独特の言い方。three pipe がひとまとまりで problem を修飾している。難しさをパイプの数で量るユーモアがあり、ホームズ物語の名文句の一つになっている。
I beg that you won't speak to me for fifty minutes
beg は「頼む、懇願する」。I beg that ~ は「どうか~してほしい」という改まった頼み方。won't は will not の短縮形で、相手の意志に向けて「話しかけないでくれ」と頼んでいる。
the gesture of a man who has made up his mind
make up one's mind は「決心する」。「心を決めた男のような身ぶりで」椅子から跳び起きた、ということ。考えがまとまり、次の行動に移る瞬間を描いている。
Could your patients spare you for a few hours?
spare は「(人や時間を)割く、手放す」。直訳は「患者たちはきみを数時間手放してくれるか」で、「数時間ほど抜けられるか」というしゃれた誘い方。ワトソンが開業医であることを踏まえている。

背景・時代

サラサーテ(Sarasate)
パブロ・デ・サラサーテ(1844〜1908)はスペイン生まれの名ヴァイオリニスト・作曲家で、「ツィゴイネルワイゼン」で知られる。ロンドンでも大変な人気があり、セント・ジェイムズ・ホールでたびたび演奏会を開いた。
セント・ジェイムズ・ホール(St. James's Hall)
ピカデリーの近くにあった大きな演奏会場(1858〜1905)。当時のロンドンの音楽の中心地の一つで、午後の演奏会もよく開かれていた。建物は取り壊され、今は残っていない。

全文の対訳

"To smoke," he answered. "It is quite a three pipe problem, and I beg that you won't speak to me for fifty minutes." He curled himself up in his chair, with his thin knees drawn up to his hawk-like nose, and there he sat with his eyes closed and his black clay pipe thrusting out like the bill of some strange bird. I had come to the conclusion that he had dropped asleep, and indeed was nodding myself, when he suddenly sprang out of his chair with the gesture of a man who has made up his mind and put his pipe down upon the mantelpiece.

「たばこを吸うのさ」と彼は答えた。「これはまさしくパイプ三服ぶんの問題だから、五十分ほどは話しかけないでくれたまえ」彼は椅子の上で体を丸め、細いひざを鷹のような鼻先まで引き寄せると、目を閉じ、黒い陶製のパイプを奇妙な鳥のくちばしのように突き出して、じっと座っていた。彼は眠りこんでしまったのだろうと私は思い、実のところ自分もこっくりしかけていたが、そのとき彼は、心を決めた人のような身ぶりで不意に椅子から跳び起き、パイプを炉棚に置いた。

"Sarasate plays at the St. James's Hall this afternoon," he remarked. "What do you think, Watson? Could your patients spare you for a few hours?"

「今日の午後、セント・ジェイムズ・ホールでサラサーテが弾くんだ」と彼は言った。「どうだい、ワトソン?きみの患者たちは、二、三時間ほどきみを放免してくれそうかね?」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • hawk-like(ホークライク)… 鷹のような(鼻が鉤形にとがった)難
  • thrusting(スラスティング)… 突き出している(thrust の -ing 形)・ぐいと押す難
  • mantelpiece(マントルピース)… 炉棚(暖炉の上の飾り棚)難
  • conclusion(カンクルージョン)… 決着・結末・結論
  • remarked(リマークト)… 言った・述べた
  • patients(ペイシェンツ)… 患者(patient の複数形)
  • nodding(ノディング)… (眠くて)こっくりする・うなずく(nod の -ing 形)
  • gesture(ジェスチャー)… 身ぶり・しぐさ・意思表示

次の場面:音楽会へ Off to the Concert

パイプ三服ぶんのあいだ黙って考え込んでいたホームズは、急に跳び起きると、午後にセント・ジェイムズ・ホールで開かれるサラサーテの演奏会にワトソンを誘う。患者は大丈夫かと聞かれたワトソンは、今日は用事がないと答える。ホームズはさっそく出かける支度を促す。