Scene 40 · Notes

解説 場面 40「コバーグ・スクエア」

この場面の解説

二人は地下鉄でオールダーズゲートまで行き、うらぶれたサックス・コバーグ・スクエアを訪ねる。ホームズはウィルソンの質屋とその通りをじっくり観察し、ステッキで歩道を何度か叩いてから店の戸をノックする。戸を開けたのは、利口そうな若い男だった。

表現・文法のポイント

a short walk took us to Saxe-Coburg Square
無生物主語の文で、直訳は「短い歩きが我々をサックス・コバーグ・スクエアへ連れていった」。take 人 to ~ は「人を~へ連れていく」。日本語では「少し歩くと~に着いた」と訳すと自然になる。
shabby-genteel
shabby「みすぼらしい」と genteel「上品な、上品ぶった」を組み合わせた語で、「落ちぶれてはいるが、体面だけは保とうとしている」様子。ヴィクトリア朝の、中流の下のほうの暮らしぶりを表すのによく使われた。
made a hard fight against a smoke-laden and uncongenial atmosphere
make a hard fight against ~ は「~を相手に苦しい戦いをする」。smoke-laden は「煙をたっぷり含んだ」、uncongenial は「性に合わない、相性の悪い」。煤けた空気の中で草木がやっと生きている様子を、戦いにたとえている。

背景・時代

質屋の看板(three gilt balls)
金色の玉を三つ吊るすのは、イギリスの質屋の目印。中世イタリアのメディチ家の紋章に由来するとも言われる。字の読めない客にもひと目で分かるよう、店先に下げられていた。
ロンドンの地下鉄(the Underground)
1863年、ロンドンで世界初の地下鉄が開業した。当時は蒸気機関車が客車を引いて走り、駅は煙で満ちていたという。オールダーズゲート駅(今のバービカン駅)も、その初期の路線の駅の一つだった。

全文の対訳

We travelled by the Underground as far as Aldersgate; and a short walk took us to Saxe-Coburg Square, the scene of the singular story which we had listened to in the morning. It was a poky, little, shabby-genteel place, where four lines of dingy two-storied brick houses looked out into a small railed-in enclosure, where a lawn of weedy grass and a few clumps of faded laurel bushes made a hard fight against a smoke-laden and uncongenial atmosphere. Three gilt balls and a brown board with "JABEZ WILSON" in white letters, upon a corner house, announced the place where our red-headed client carried on his business. Sherlock Holmes stopped in front of it with his head on one side and looked it all over, with his eyes shining brightly between puckered lids. Then he walked slowly up the street, and then down again to the corner, still looking keenly at the houses. Finally he returned to the pawnbroker's, and, having thumped vigorously upon the pavement with his stick two or three times, he went up to the door and knocked. It was instantly opened by a bright-looking, clean-shaven young fellow, who asked him to step in.

我々は地下鉄でオールダーズゲートまで行き、そこから少し歩いて、朝に聞いたあの奇妙な話の舞台、サックス・コバーグ・スクエアに着いた。そこは狭苦しく、ちっぽけで、落ちぶれながらも体裁だけはつくろった場所で、くすんだ二階建てのれんがの家が四方に並んで、柵に囲まれた小さな空き地を見下ろしており、その空き地では、雑草まじりの芝生と、色あせた月桂樹の茂みがいくつか、煤煙を含んだ肌に合わない空気を相手に、苦しい戦いを続けていた。角の一軒には、金色の玉が三つと、白い文字で「ジェイベズ・ウィルソン」と書かれた茶色の看板が掲げられ、そこが赤毛の依頼人の商う店であることを示していた。シャーロック・ホームズはその前で立ち止まって首をかしげ、細めたまぶたのあいだから目をきらきらと光らせながら、店をくまなく眺めた。それから彼は通りをゆっくりと歩いて行き、また角まで戻ってきたが、そのあいだも家々を鋭く見つめ続けていた。最後に彼は質屋の前に戻ると、ステッキで歩道を二、三度強く叩いてから、戸口へ歩み寄ってノックした。ドアはすぐに開き、利口そうな顔つきの、ひげをきれいに剃った若い男が、どうぞ中へと彼を招いた。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • poky(ポウキー)… 狭苦しい・ちっぽけな難
  • shabby-genteel(シャビージェンティール)… 落ちぶれても体面を保とうとする・みすぼらしいが上品ぶった難
  • dingy(ディンジー)… くすんだ・薄汚れた難
  • railed-in(レイルドイン)… 柵で囲まれた難
  • enclosure(インクロウジャー)… 囲い地・囲まれた場所・同封物難
  • weedy(ウィーディー)… 雑草の多い・雑草だらけの・ひょろひょろした難
  • clumps(クランプス)… 茂み・かたまり(clump の複数形)難
  • laurel(ローレル)… 月桂樹難
  • smoke-laden(スモウクレイドゥン)… 煙をたっぷり含んだ・煙たい難
  • uncongenial(アンコンジーニアル)… 性に合わない・好ましくない・居心地の悪い難
  • gilt(ギルト)… 金めっきの・金箔を張った難
  • puckered(パッカード)… すぼめた・細めた・しわの寄った難
  • pawnbroker's(ポーンブロウカーズ)… 質屋の(pawnbroker の所有格)・質屋の店難
  • thumped(サンプト)… どんと叩いた(thump の過去形・過去分詞)難
  • bright-looking(ブライトルッキング)… 利口そうな・明るい顔つきの難
  • clean-shaven(クリーンシェイヴン)… ひげをきれいに剃った難

次の場面:道を尋ねる Asking the Way

質屋の戸口に現れたのは、ひげのない身ぎれいな若い助手だった。ホームズはストランド街への道を尋ねるだけで、すぐに引き上げる。歩き出すと、ホームズはこの若者をロンドンでも指折りの切れ者だと評し、以前から知っていると言う。ワトソンは、道を尋ねたのは助手の顔を見るためだったのだと考える。