Scene 59 · Notes

解説 場面 59「床から出た手」

この場面の解説

敷石の上の小さな光が線になり、すき間から白い手が出て辺りを探り、また消える。やがて敷石の一枚がひっくり返って四角い穴が開き、若い男がはい上がって、真っ赤な髪の小柄な仲間を引き上げる。

表現・文法のポイント

a lurid spark upon the stone pavement
lurid は「(不気味に)赤くぎらつく・毒々しい」。spark は「火花・小さな光」。pavement はここでは「(地下室の)石を敷いた床」で、歩道の意味ではない。闇の中に現れた光の不吉さを伝える言葉選びだ。
a white, almost womanly hand
womanly は「女らしい・女性のような」。almost がついて「ほとんど女のような」。白くきゃしゃな手で、力仕事をする職人の手ではない、という印象を与える。a hand appeared の hand を言い直して詳しく説明する書き方だ。
Its disappearance, however, was but momentary
but は only の意味で「ほんの一瞬にすぎなかった」。however を文の途中にはさむのは書き言葉でよく使う形。momentary は「一瞬の・束の間の」で、名詞 moment の形容詞形だ。
drew itself shoulder-high and waist-high
draw oneself up は「体を引き上げる」。主語は face(顔)なので itself になっている。shoulder-high は「肩の高さまで」、waist-high は「腰の高さまで」で、穴から体が少しずつ現れてくる様子を描いている。

全文の対訳

At first it was but a lurid spark upon the stone pavement. Then it lengthened out until it became a yellow line, and then, without any warning or sound, a gash seemed to open and a hand appeared, a white, almost womanly hand, which felt about in the centre of the little area of light. For a minute or more the hand, with its writhing fingers, protruded out of the floor. Then it was withdrawn as suddenly as it appeared, and all was dark again save the single lurid spark which marked a chink between the stones.

初めは、敷石の床の上に、ぎらりと不気味に光る火花がひとつ見えるだけだった。やがてそれは長く伸びて黄色い線となり、それから、何の前ぶれも物音もなく、裂け目が口を開けたかと思うと、手が一本現れた――白い、ほとんど女のような手で、小さな光の輪の真ん中あたりを手探りしていた。一分かそれ以上のあいだ、その手は指をうねうねと動かしながら、床から突き出ていた。やがて手は現れたときと同じく唐突に引っこみ、敷石のすき間を示す不気味な火花ひとつを残して、あたりはまた闇に戻った。

Its disappearance, however, was but momentary. With a rending, tearing sound, one of the broad, white stones turned over upon its side and left a square, gaping hole, through which streamed the light of a lantern. Over the edge there peeped a clean-cut, boyish face, which looked keenly about it, and then, with a hand on either side of the aperture, drew itself shoulder-high and waist-high, until one knee rested upon the edge. In another instant he stood at the side of the hole and was hauling after him a companion, lithe and small like himself, with a pale face and a shock of very red hair.

だが、手が消えていたのは、ほんの束の間のことだった。引き裂くような、めりめりという音とともに、幅の広い白い敷石の一枚が横倒しにひっくり返り、ぽっかりと口を開けた四角い穴が残されて、そこからランタンの光があふれ出した。穴のふちから、目鼻立ちの整った少年のような顔がのぞき、鋭くあたりを見回すと、穴の両側に手をかけて、肩まで、さらに腰まで体を引き上げ、ついに片ひざをふちにかけた。次の瞬間には男は穴のわきに立ち、自分と同じく小柄で身のこなしの軽い、青白い顔にもじゃもじゃの真っ赤な髪をした仲間を、後から引っぱり上げていた。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • lurid(リュアリッド)… (不気味に)ぎらつく・毒々しい色の難
  • gash(ギャッシュ)… 裂け目・深い切り傷難
  • womanly(ウーマンリー)… 女のような・女らしい難
  • writhing(ライズィング)… うねうねと動く・身もだえする難
  • protruded(プロトルーディッド)… 突き出た・はみ出した難
  • chink(チンク)… (細い)すき間・割れ目難
  • rending(レンディング)… 引き裂くような・裂ける難
  • gaping(ゲイピング)… ぽっかり口を開けた難
  • clean-cut(クリーンカット)… 目鼻立ちの整った・こざっぱりした難
  • aperture(アパチャー)… 穴・すき間・開口部難
  • shoulder-high(ショウルダーハイ)… 肩の高さ(まで)の・肩の高さまで難
  • waist-high(ウェイストハイ)… 腰の高さ(まで)の・腰の高さまで難
  • lithe(ライズ)… しなやかな・身のこなしの軽い難

次の場面:飛びかかる The Trap Springs

敷石の穴から、若い男とその仲間が地下室にはい上がってくる。二人はまだ、闇の中にホームズたちが潜んでいることに気づいていない。男は小声で仲間に道具の用意を確かめる。その瞬間、木箱の陰からホームズが飛び出し、待ち構えていた一行がいっせいに動きだす。