Scene 02 · Notes

解説 場面 2「夜明けの依頼人」

この場面の解説

四月のある朝、ホームズが身支度を整えてワトソンを起こしに来る。ひどく興奮した若い女性が訪ねてきて居間で待っており、こんな時刻に来るからにはよほど切迫した用件だろう、とホームズは言う。ワトソンは喜んで同行に応じる。

表現・文法のポイント

Very sorry to knock you up
knock up は英国英語で「ドアをたたいて人を起こす」。ここは、たたき起こしてすまない、という意味。米国英語ではまったく別の意味になるので注意。Very sorry は I am very sorry の省略で、くだけた言い方だ。
as a rule
as a rule は「たいてい、概して」。例外はあるが普通は、という含みの挿入句。ホームズが普段は朝寝坊だと述べ、早起きの今朝がいつもと違う異例の日だと際立たせている。
Should it prove to be an interesting case
If it should prove to be 〜 の if を省き、Should を文頭に出した倒置の条件文。「もし〜だと分かったら」と、可能性を低めに見た仮定を表す。prove to be 〜 は「結果として〜だと分かる」。
I would not miss it for anything
miss は「逃す」。否定文の for anything は「何があっても〜ない」。would not と合わせて、絶対に逃したくないという強い意志を、親しい友人同士のくだけた調子で表している。

背景・時代

ハドソン夫人(Mrs. Hudson)
ベイカー街の下宿の大家で、ホームズとワトソンの暮らしを世話している。ホームズの冗談では、依頼人に起こされた夫人がホームズを、ホームズがワトソンを起こすという、起こし起こされる連鎖になっている。

全文の対訳

It was early in April in the year '83 that I woke one morning to find Sherlock Holmes standing, fully dressed, by the side of my bed. He was a late riser, as a rule, and as the clock on the mantelpiece showed me that it was only a quarter-past seven, I blinked up at him in some surprise, and perhaps just a little resentment, for I was myself regular in my habits.

それは一八八三年の四月の初め、ある朝、目を覚ますと、シャーロック・ホームズが身支度をすっかり整えて私のベッドの脇に立っていた、という日のことだ。彼はたいてい朝寝坊で、暖炉の上の時計もまだ七時十五分にしかなっていなかったので、私は少し驚き、おそらくほんの少し恨めしく思いながら彼を見上げてまばたきをした。私自身は規則正しい生活を送っていたからだ。

"Very sorry to knock you up, Watson," said he, "but it's the common lot this morning. Mrs. Hudson has been knocked up, she retorted upon me, and I on you."

「たたき起こしてすまないね、ワトソン」と彼は言った。「だが今朝は、誰もがこういう目に遭う日なのだ。ハドソン夫人がたたき起こされ、彼女がそれを私に返し、私がそれをきみに回したというわけさ」

"What is it, then—a fire?"

「では何だい——火事かい?」

"No; a client. It seems that a young lady has arrived in a considerable state of excitement, who insists upon seeing me. She is waiting now in the sitting-room. Now, when young ladies wander about the metropolis at this hour of the morning, and knock sleepy people up out of their beds, I presume that it is something very pressing which they have to communicate. Should it prove to be an interesting case, you would, I am sure, wish to follow it from the outset. I thought, at any rate, that I should call you and give you the chance."

「いや、依頼人だよ。若い女性が、かなり興奮した様子でやって来て、どうしても私に会いたいと言い張っているらしい。いまは居間で待っている。さて、若い女性がこんな朝早くに大都会をさまよい歩き、眠っている人間をベッドから叩き起こすとなれば、よほど切迫した用件を伝えに来たのだろうと私は思う。もしおもしろい事件だと分かれば、きみはきっと、最初から立ち会いたいと思うはずだ。とにかく、きみを呼んでその機会を与えるべきだと思ったのだよ」

"My dear fellow, I would not miss it for anything."

「きみ、こんな機会を逃すものか」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • riser(ライザー)… 起きる人(late riser=朝寝坊)難
  • mantelpiece(マントルピース)… 炉棚(暖炉の上の飾り棚)難
  • resentment(リゼントメント)… 恨めしさ・憤り難
  • retorted(リトーティッド)… 言い返した難
  • metropolis(メトロポリス)… 大都会(ここではロンドン)難
  • outset(アウトセット)… 最初・出だし難
  • quarter-past(クウォーターパースト)… ~時十五分(過ぎ)
  • considerable(コンスィダラブル)… かなりの・相当な

次の場面:黒衣の女性 The Lady in Black

ワトソンはホームズの推理を間近で見るのが何よりの楽しみで、大急ぎで服を着て友人と居間へ降りる。窓辺にいた黒衣の女性は、厚いヴェールをかぶったまま二人を迎えて立ち上がる。ホームズは陽気にあいさつし、暖炉のそばに座るよう勧める。