第 1 章(I)依頼人の話The Adventure of the Speckled Band

一八八三年四月の朝、ホームズに起こされたワトソンの前に、黒いヴェールの若い女性が座っていた。ヘレン・ストーナーは、乱暴な義父と暮らす古い屋敷のこと、そして二年前に姉が迎えた奇妙な最期を語りはじめる。夜ごとの口笛と、姉が最後に叫んだ言葉の意味とは。

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  1. 01ホームズの記録から From Watson's Notesワトソンは、ホームズの手法を研究してきた七十件あまりの事件の記録を見返している。悲劇もあれば喜劇もあるが、ありふれたものは一つもない。なかでもひときわ変わっていたのが、ストーク・モランのロイロット家をめぐる事件だ。守ってきた秘密の約束が解けた今、その顛末を書き残そうとする。
  2. 02夜明けの依頼人 A Client at Dawn一八八三年の四月初め、ワトソンが目を覚ますと、すっかり身支度を整えたホームズがベッドの脇に立っている。普段は朝寝坊の彼が、まだ七時十五分なのに友人を起こしに来た理由は、若い女性の依頼人が居間で待っているからだ。ワトソンは迷わず同行を決める。
  3. 03黒衣の女性 The Lady in Blackワトソンはホームズの推理を間近で見るのが何よりの楽しみで、大急ぎで服を着て友人と居間へ降りる。窓辺にいた黒衣の女性は、厚いヴェールをかぶったまま二人を迎えて立ち上がる。ホームズは陽気にあいさつし、暖炉のそばに座るよう勧める。
  4. 04恐怖に震えて Shivering with Fearヴェールの女性は、震えているのは寒さのせいではなく恐怖のせいだと言う。ヴェールを上げた顔は、三十歳ほどなのにやつれ、髪には早すぎる白髪が混じっている。ホームズは落ち着いて彼女を眺め、手袋の切符から、その朝の行動を言い当ててみせる。
  5. 05助けを求めて A Plea for Helpホームズに言い当てられて、女性はぎくりと身をすくめる。ホームズは、上着の左袖に跳ねた泥から、ドッグカートの左側に座ったことまで説明してみせる。女性は、もう緊張に耐えられないと訴え、以前ホームズに助けられたファリントッシュ夫人の紹介で来たのだと語る。
  6. 06迫る危険 Danger Draws Nearホームズは机の鍵を開け、事件簿でファリントッシュ夫人の件を確かめる。報酬は後でかまわないと告げ、事情を話すよう促す。女性は、自分の不安があまりに漠然としているため、頼りにする人にさえ神経質な女の気のせいだと思われている、と打ち明ける。
  7. 07ロイロット家 The Roylotts of Stoke Moran依頼人は、ヘレン・ストーナーと名乗る。サリー州の古い屋敷で義父と暮らしているという。ホームズがその名に聞き覚えがあると言うなか、彼女は一族の歴史を語りはじめる。かつての栄華と没落、そして義父が若いころにたどった道のりである。
  8. 08インドでの結婚 A Marriage in Indiaヘレンは話を義父との出会いへ進める。インドで医師として身を立てた義父は、現地で一人の若い未亡人と結婚した。それがヘレンと双子の姉ジュリアの母である。母の財産のゆくえと、帰国後に母を襲った不幸、そして一家の新しい住まいが語られる。
  9. 09変わり果てた義父 A Changed Man屋敷に移った一家に、やがて義父の変化が訪れる。近所づきあいを避け、荒れた気性でひとたび人とぶつかれば手がつけられない。ヘレンは、村の人々が義父をどう恐れているのかを、具体的な出来事とともに語る。義父が親しむ相手と、飼っている動物にも話が及ぶ。
  10. 10姉ジュリア Her Sister Julia義父の暮らしぶりを語り終えたヘレンは、いよいよ本題に入る。閉ざされた屋敷で姉ジュリアと過ごした日々、叔母の家で出会った相手との婚約。ホームズに姉のことを問われ、彼女は二年前に起きた出来事を語りはじめる。
  11. 11屋敷の間取り The Layout of the House姉の死のことを語ると言うヘレンに、それまで目を閉じていたホームズは、まぶたを半ば開けて細部を正確に話すよう求める。ヘレンは屋敷の間取りを丁寧に説明し、あの運命の夜、姉が結婚の話をしに自分の部屋へ来た様子を語りはじめる。
  12. 12夜の口笛 A Whistle in the Night戸口で足を止めた姉は、妹のヘレンにふと妙な問いを投げかける。真夜中に口笛を聞いたことはないか、と。ここ数日、夜中の三時ごろになると、低くはっきりした音で目が覚めるのだという。ヘレンは聞いたことがなく、思いつくままに答える。
  13. 13姉の不安 Julia's Unease口笛の話を終えた姉妹は、軽く言葉を交わして別れる。姉は戸を閉め、鍵を回す。ここでホームズが口をはさみ、姉妹がいつも鍵をかけて眠っていたのかと尋ねる。ヘレンは、その理由を義父の飼う動物に結びつけて答える。
  14. 14嵐の夜 A Stormy Night姉の死の夜が語られる。ヘレンは眠れず、不吉な予感を抱いたまま嵐の音を聞いている。そのとき、屋敷に姉の悲鳴が響く。ヘレンは寝間着にショールを巻いて廊下へ飛び出し、口笛と金属の音を耳にして、姉の部屋の戸がゆっくり開くのを見つめる。
  15. 15まだらの紐 The Speckled Band嵐の夜に姉の悲鳴を聞いたヘレンは、ショールを巻いて廊下へ飛び出した。姉の部屋の扉がひとりでに開き、ランプの明かりの中に姉の姿が現れる。ヘレンの回想は、ここから姉の最期の場面へと進んでいく。外では嵐が吹き荒れている。
  16. 16口笛と金属の音 Whistle and Clangヘレンが姉の最期を語り終えると、ホームズが口をはさむ。姉の死の夜に聞いたという口笛と金属の音は確かなのか。ヘレンは検死審問でも同じ質問を受けたと答え、ホームズは姉の服装や、手にあった物を次々に尋ねていく。
  17. 17死因は不明 No Cause of Death検死官はどんな結論に達したのか。ホームズに問われ、ヘレンは審問の様子を順に語る。部屋の戸締まり、壁や床、煙突の調べ。姉の身に何が起きたのかを確かめようと、あらゆる手が尽くされた。ホームズは目を閉じて、その一つ一つに耳を傾ける。
  18. 18ジプシーと紐 Gipsies and a Band姉の最期の言葉「まだらの紐」は何を指すのか。屋敷の林にジプシーがいたかを確かめたホームズが、その言葉についてヘレンに尋ねる。ヘレンは二通りの考えを述べるが、ホームズは首を横に振って納得せず、話の先を促す。
  19. 19ふたたび口笛 The Whistle Again姉の死から二年。ヘレンは最近、結婚を申し込まれたが、屋敷の修繕のために姉の死んだ部屋へ移ることになったという。昨夜その部屋で聞いたものと、夜明けに屋敷を抜け出してホームズを訪ねた経緯を語る。ホームズとワトソンは黙って耳を傾ける。
  20. 20手首のあざ A Bruised Wristヘレンが話し終えると、ホームズは「すべて話したか」と念を押す。彼女はうなずくが、ホームズは義父をかばっていると指摘し、客の手首にある跡を見せる。やがて彼は暖炉の火を見つめ、長く黙り込む。部屋に重い沈黙が落ちる。
  21. 21屋敷へ行く約束 A Visit Arranged長い沈黙のあと、ホームズはこの事件を実に根の深いものだと言い、決める前に知りたいことは山ほどあるが猶予はないと続ける。そして、義父に知られずにストーク・モランの部屋を見て回れるかどうかを、ヘレンに尋ねる。
  22. 22依頼人の帰り The Client Departsホームズの頼みに、ヘレンは町での用事を済ませたら正午の列車で屋敷へ戻ると答える。ホームズは午後早くに伺うと約束し、朝食を勧めるが、彼女は断る。悩みを打ち明けて心が軽くなった彼女は、ヴェールをおろして去る。