Scene 05 · Notes

解説 場面 5「助けを求めて」

この場面の解説

ホームズは、上着の左袖に七か所も泥が跳ねていることから、ドッグカートの御者の左に座ったと説明する。女性はそのとおりだと認め、六時前に家を出て始発列車で来たこと、もう緊張に耐えられないことを訴える。ファリントッシュ夫人から住所を聞いたと言い、助けを求める。

表現・文法のポイント

in no less than seven places
no less than 〜 は「〜も」と数の多さを強調する言い方で、予想以上に多いことを示す。not less than(少なくとも〜)と区別すること。ここは「七か所も」、泥の跳ねの多さをホームズが指摘している。
There is no vehicle save a dog-cart
save は前置詞で「〜を除いて」(= except)。やや文語的な言い方。「ドッグカート以外に乗り物はない」。続く then only when 〜 は「しかも〜のときに限って」と条件をさらに絞る。
I can stand this strain no longer
stand は「耐える」、no longer は「もはや〜ない」(= not 〜 any longer)。no longer を文末に置くと、切迫した気持ちが強まる。strain は「張りつめた緊張、重圧」を指す名詞だ。
throw a little light through the dense darkness
throw light on 〜 は「〜を明らかにする」という慣用表現。ここは「深い闇に光を通す」という比喩にして、自分を包む謎を解き明かしてほしい、と訴えている。dense は「濃い、深い」。

背景・時代

ウォータールー駅(Waterloo Station)
ロンドン南西部の玄関口で、サリー州やハンプシャー方面へ向かう南西鉄道の始発駅。依頼人はレザーヘッドから始発列車でここに着き、そこからベイカー街へ向かって来た。

全文の対訳

The lady gave a violent start and stared in bewilderment at my companion.

女性はぎくりと大きく身を震わせ、戸惑いながら私の連れを見つめた。

"There is no mystery, my dear madam," said he, smiling. "The left arm of your jacket is spattered with mud in no less than seven places. The marks are perfectly fresh. There is no vehicle save a dog-cart which throws up mud in that way, and then only when you sit on the left-hand side of the driver."

「何も不思議なことはありませんよ、お嬢さん」と彼は微笑んで言った。「上着の左の袖には、泥が七か所も跳ねています。跡はまったく新しい。そんなふうに泥をはね上げる乗り物は、ドッグカートのほかにありません。しかも、御者の左側に座ったときに限ります」

"Whatever your reasons may be, you are perfectly correct," said she. "I started from home before six, reached Leatherhead at twenty past, and came in by the first train to Waterloo. Sir, I can stand this strain no longer; I shall go mad if it continues. I have no one to turn to—none, save only one, who cares for me, and he, poor fellow, can be of little aid. I have heard of you, Mr. Holmes; I have heard of you from Mrs. Farintosh, whom you helped in the hour of her sore need. It was from her that I had your address. Oh, sir, do you not think that you could help me, too, and at least throw a little light through the dense darkness which surrounds me? At present it is out of my power to reward you for your services, but in a month or six weeks I shall be married, with the control of my own income, and then at least you shall not find me ungrateful."

「理由が何であれ、おっしゃるとおりです」と彼女は言った。「六時前に家を出て、六時二十分にレザーヘッドに着き、ウォータールー駅行きの始発列車でこちらへ参りました。ホームズさん、私はもうこの緊張に耐えられません。このままでは気が狂ってしまいます。頼れる人は誰もいません——ただ一人、私を気にかけてくれる人がいるだけで、その人も、気の毒に、ほとんど力になれないのです。あなたのことは存じております、ホームズさん。ファリントッシュ夫人から聞きました。夫人がひどく困っていたとき、あなたが助けてくださったそうですね。あなたの住所を教えてくれたのも夫人です。ああ、ホームズさん、私のことも助けていただけないでしょうか。せめて、私を包む深い闇に、少しでも光を投げかけてくださいませんか。いまはお礼をする力がありませんが、一か月か六週間後には結婚して、自分の収入を自分で自由にできるようになります。そうなれば、少なくとも恩知らずとは思われずにすむはずです」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • bewilderment(ビウィルダーメント)… 戸惑い・当惑難
  • spattered(スパタード)… 泥などが跳ねて汚れた・はねかけられた難
  • dog-cart(ドッグカート)… ドッグカート(背の高い二輪の軽装馬車)難
  • ungrateful(アングレイトフル)… 恩知らずな・感謝しない
  • companion(カンパニオン)… 仲間・相棒
  • left-hand(レフトハンド)… 左手の・左側の
  • surrounds(サラウンズ)… 取り囲む・取り巻く
  • whatever(ウォットエヴァー)… 〜するものは何でも・何が〜しても

次の場面:迫る危険 Danger Draws Near

ホームズは机の鍵を開け、事件簿でファリントッシュ夫人の件を確かめる。報酬は後でかまわないと告げ、事情を話すよう促す。女性は、自分の不安があまりに漠然としているため、頼りにする人にさえ神経質な女の気のせいだと思われている、と打ち明ける。