Scene 45 · Notes

解説 場面 45「宿の窓から」

この場面の解説

ホームズとワトソンはクラウン亭の二階に部屋を取り、窓から屋敷の門と住居の棟を見渡す。夕暮れ、帰ってきた博士が門を開ける少年に怒鳴り散らす姿が見え、やがて屋敷に明かりがともる。ホームズは今夜の危険を理由にワトソンを連れていくことをためらうが、ワトソンは同行を申し出る。

表現・文法のポイント

had no difficulty in engaging
have no difficulty in ~ing は「難なく~する」。engage は「(部屋や人を)借りる、雇う、予約する」の意味で、やや古めかしい言い方。ここでは宿の寝室と居間を借りることを指す。
command a view of
command a view of ~ は「~を見渡せる」。command は「命令する」のほかに、高い所から「見渡す、見下ろす」意味がある。窓から門と屋敷の一角が見えるという、ホームズたちに好都合な位置を表す。
some scruples as to taking you to-night
scruple は「ためらい、気がとがめること」で、ふつう複数形で使う。as to ~ は「~について」。to-night は今の tonight の古い書き方で、ハイフン付きは当時の綴りだ。
Your presence might be invaluable
invaluable は「評価しきれないほど貴重な」の意味で、valuable より強い。might は控えめな推量。Can I be of assistance?(お役に立てるかい)に対する、落ち着いた返事になっている。

背景・時代

領主館(Manor House)
manor はもとは領主が支配した土地とその屋敷のこと。ストーク・モランの屋敷は古い領主館で、いまは一部の棟だけが住まいとして使われている。
二輪馬車(trap)
trap は軽量の馬車の総称で、とくに馬一頭が引く二輪のものを指すことが多い。田舎では人を乗せる身近な乗り物として広く使われた。

全文の対訳

Sherlock Holmes and I had no difficulty in engaging a bedroom and sitting-room at the Crown Inn. They were on the upper floor, and from our window we could command a view of the avenue gate, and of the inhabited wing of Stoke Moran Manor House. At dusk we saw Dr. Grimesby Roylott drive past, his huge form looming up beside the little figure of the lad who drove him. The boy had some slight difficulty in undoing the heavy iron gates, and we heard the hoarse roar of the Doctor's voice and saw the fury with which he shook his clinched fists at him. The trap drove on, and a few minutes later we saw a sudden light spring up among the trees as the lamp was lit in one of the sitting-rooms.

シャーロック・ホームズと私は、クラウン亭で寝室と居間を難なく借りることができた。部屋は二階にあり、窓からは並木道の門と、ストーク・モランの領主館の人が住んでいる棟が見渡せた。夕暮れ、グリムズビー・ロイロット博士が馬車で通り過ぎるのが見え、その巨体は、御者を務める小柄な少年のそばにぬっとそびえ立っていた。少年は重い鉄の門を開けるのにやや手間取り、私たちは博士のしわがれた怒号を聞き、博士が少年に向かって握りしめた拳を振り回す激しい怒りようを目にした。馬車は走り去り、数分後、居間のひとつにランプがともって、木々の間にぱっと明かりが灯るのが見えた。

"Do you know, Watson," said Holmes as we sat together in the gathering darkness, "I have really some scruples as to taking you to-night. There is a distinct element of danger."

「ねえ、ワトソン」と、深まる暗がりの中で並んで座ったままホームズは言った。「今夜きみを連れていくことに、実は少しためらいがあるんだ。はっきりと危険があるのでね」

"Can I be of assistance?"

「手伝えることはあるかい?」

"Your presence might be invaluable."

「きみがいてくれれば、非常に助かるかもしれない」

"Then I shall certainly come."

「それなら、ぜひ行くよ」

"It is very kind of you."

「ありがたいね」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • engaging(エンゲイジング)… 借りる・予約する(この形)・魅力的な難
  • inhabited(インハビティッド)… 人が住んでいる難
  • manor(マナー)… 領主館・荘園の屋敷難
  • looming(ルーミング)… ぬっとそびえている・不気味に現れている難
  • hoarse(ホース)… しわがれた・かすれた難
  • fury(フューリー)… 激しい怒り・憤怒難
  • clinched(クリンチト)… 固く握りしめた・(議論に)決着をつけた難
  • scruples(スクループルズ)… ためらい・良心のとがめ難
  • invaluable(インヴァリュアブル)… 非常に貴重な・計り知れないほど役に立つ難

次の場面:危険な夜 A Dangerous Night

宿の部屋で夜を待つあいだ、ワトソンはホームズに、屋敷で見たものについて話しかける。呼び鈴の紐のほか、気になるものはなかったと言うワトソンに、ホームズは通風口の話を持ち出し、思いがけないことを口にする。