Scene 55 · Notes

解説 場面 55「博士の部屋」

この場面の解説

ホームズはランプをともして廊下を進み、博士の部屋の扉を二度叩くが返事はない。中に入ると、遮光ランタンが半開きの金庫を照らし、部屋着姿の博士が椅子に座ったまま、目を天井の隅に据えている。額には茶色い斑点のある黄色い紐が巻かれており、ホームズが「まだらの紐だ」とささやく。

表現・文法のポイント

I at his heels
I was at his heels の was を省いた付帯状況の表現。at one's heels は「すぐ後ろに」で、足のかかとに食らいつくように続く姿を言う。動詞のない短い形が、扉を開けるホームズの動きにすぐ続く場面の速さを伝える。
the door of which was ajar
前置詞+関係代名詞の of which で「その扉は」。the iron safe の説明を後ろから添える。ajar は扉が少しだけ開いた状態で、半開きの金庫が、中身を取り出した後か何かが入っていた形跡を想像させる。
clad in a long grey dressing-gown
clad は「身にまとった」の文語的な過去分詞で、be clad in ~ で「~を着ている」。dressing-gown は寝室で羽織る部屋着。博士が夜の服装のまま座っている様子が、その後に続く細かな描写へつながる。
neither sound nor motion
neither A nor B は「AもBも〜ない」。ここでは sound も motion も出さなかった、つまり音も動きもまったくないということ。博士が入ってきた私たちに何の反応も見せない不気味さを強めている。

背景・時代

部屋着とトルコ風スリッパ(dressing-gown と Turkish slippers)
ヴィクトリア朝の紳士は、夜は長い部屋着を羽織って過ごした。かかとのない先のとがった「トルコ風スリッパ」は東洋の品として流行しており、インド帰りの博士の身の回りにも東洋趣味が見える。

全文の対訳

With a grave face he lit the lamp and led the way down the corridor. Twice he struck at the chamber door without any reply from within. Then he turned the handle and entered, I at his heels, with the cocked pistol in my hand.

ホームズは厳しい顔でランプをともし、廊下を先に立って進んだ。彼は部屋の扉を二度叩いたが、中からは何の返事もなかった。それから取っ手を回して中に入った。私は撃鉄を起こした拳銃を手に、すぐ後ろに続いた。

It was a singular sight which met our eyes. On the table stood a dark-lantern with the shutter half open, throwing a brilliant beam of light upon the iron safe, the door of which was ajar. Beside this table, on the wooden chair, sat Dr. Grimesby Roylott clad in a long grey dressing-gown, his bare ankles protruding beneath, and his feet thrust into red heelless Turkish slippers. Across his lap lay the short stock with the long lash which we had noticed during the day. His chin was cocked upward and his eyes were fixed in a dreadful, rigid stare at the corner of the ceiling. Round his brow he had a peculiar yellow band, with brownish speckles, which seemed to be bound tightly round his head. As we entered he made neither sound nor motion.

私たちの目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。テーブルの上には遮光ランタンがあり、覆いが半分開いて、鉄の金庫にまばゆい光の筋を投げかけていた。その金庫の扉は少し開いている。このテーブルのそば、木の椅子に、グリムズビー・ロイロット博士が座っていた。長い灰色の部屋着をまとい、むき出しの足首がその下からのぞき、足には、かかとのない赤いトルコ風スリッパをつっかけている。膝の上には、昼間に私たちが目にとめた、長い鞭のついた短い柄が横たわっていた。あごは上を向き、目は恐ろしくこわばったまなざしで天井の隅を見据えている。額のまわりには、茶色がかった斑点のある奇妙な黄色い紐があり、それが頭にきつく巻きつけられているように見えた。私たちが入っても、彼は音も立てず、身動きもしなかった。

"The band! the speckled band!" whispered Holmes.

「紐だ! まだらの紐だ!」とホームズはささやいた。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • cocked(コックト)… (頭を)かしげた・(耳を)立てた・(銃の撃鉄を)起こした(cock の過去形)難
  • dark-lantern(ダークランタン)… 遮光ランタン(光をふさぐ戸の付いた角灯)難
  • ajar(アジャー)… (扉が)少し開いて難
  • clad(クラッド)… 身にまとった(古風・文語)難
  • protruding(プロトルーディング)… 突き出している難
  • thrust(スラスト)… 突き出した・押しやった(thrust の過去形・過去分詞)・突き出す難
  • heelless(ヒールレス)… かかとのない難
  • lash(ラッシュ)… 鞭・(鞭の)革ひも部分・鞭打つ難
  • rigid(リジッド)… こわばった・堅い難
  • brow(ブラウ)… 額(ひたい)・眉難
  • speckles(スペックルズ)… 小さな斑点・まだら(複数)難
  • speckled(スペックルド)… まだらの・斑点のある難

次の場面:一歩前へ A Step Forward

ホームズのささやきが、静まり返った博士の部屋に落ちる。ランタンの光の中、椅子に掛けた博士の姿はどこか異様で、ワトソンにはその意味がまだのみ込めない。拳銃を構えたまま、ワトソンは確かめようと一歩前へ踏み出す。