Scene 56 · Notes

解説 場面 56「一歩前へ」

この場面の解説

ワトソンが一歩踏み出すと、博士の頭の紐が動き出し、髪の間から忌まわしい蛇が頭をもたげた。ホームズは、それがインドで最も猛毒の沼毒蛇で、博士は噛まれて十秒とたたぬうちに死んだのだと言い、暴力は暴力をふるう者に返ると語る。そして犬用の鞭の輪を蛇の首にかけ、鉄の金庫に放り込んで扉を閉めた。

表現・文法のポイント

there reared itself from among his hair
there +動詞+主語の倒置で、主語 the squat diamond-shaped head ... が長いため後ろに回っている。reared itself は「自分を持ち上げた」で、蛇が鎌首をもたげる動き。from among ~ は「~の中から」。
Violence does, in truth, recoil upon the violent
recoil upon ~ は「~にはね返る」。一般的な真理を述べる現在形で、does は動詞を強く言い切る。in truth は挿入句で「まことに」。the violent は〈the+形容詞〉で「暴力をふるう者たち」と人を表す。
the schemer falls into the pit which he digs for another
「人を呪わば穴二つ」に通じる格言風の言い方。schemer は策をめぐらす者、the pit は落とし穴で、which he digs for another は「他人のために掘る」。another は = another person。現在形が一般の教訓を表す。
at arm's length
at arm's length は「腕を伸ばした距離に」。carry it at arm's length で、蛇を体から遠ざけて持つ。「距離を置く」という比喩にもなる句だが、ここは文字どおりの意味で、おそるおそる運ぶ様子を表す。

背景・時代

沼毒蛇(swamp adder)
作中でホームズが「インドで最も猛毒の蛇」と呼ぶ蛇。そうした名の蛇は実在せず、ドイルの創作とされる。蛇の習性や毒の描写も実際の蛇とは合わない点が多く、のちに議論の的になった。

全文の対訳

I took a step forward. In an instant his strange headgear began to move, and there reared itself from among his hair the squat diamond-shaped head and puffed neck of a loathsome serpent.

私は一歩前に踏み出した。たちまち、その奇妙な頭飾りが動き出し、髪の間から、平たいひし形の頭とふくらんだ首をもたげた、忌まわしい蛇が現れた。

"It is a swamp adder!" cried Holmes; "the deadliest snake in India. He has died within ten seconds of being bitten. Violence does, in truth, recoil upon the violent, and the schemer falls into the pit which he digs for another. Let us thrust this creature back into its den, and we can then remove Miss Stoner to some place of shelter and let the county police know what has happened."

「沼毒蛇だ!」とホームズは叫んだ。「インドで最も猛毒の蛇だよ。博士は、噛まれて十秒とたたないうちに死んだのだ。暴力は、まことに、暴力をふるう者にはね返り、策をめぐらす者は、他人のために掘った穴に自分が落ちるのだ。この生き物を巣穴に押し戻そう。そうすれば、ストーナーさんをどこか安全な場所に移し、郡の警察に事情を知らせることができる」

As he spoke he drew the dog-whip swiftly from the dead man's lap, and throwing the noose round the reptile's neck he drew it from its horrid perch and, carrying it at arm's length, threw it into the iron safe, which he closed upon it.

そう言うと彼は、死んだ男の膝から犬用の鞭をすばやく引き取り、その輪を蛇の首にかけて、おぞましい止まり木から引きはがし、腕をいっぱいに伸ばして運び、鉄の金庫に放り込んで扉を閉ざした。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • headgear(ヘッドギア)… 頭にかぶるもの・帽子類難
  • reared(リアド)… (蛇が)鎌首をもたげた・(馬が)後ろ脚で立った・育てた難
  • squat(スクウォット)… ずんぐりした・平たい・しゃがむ難
  • loathsome(ロウズサム)… 忌まわしい・ぞっとするほどいやな難
  • serpent(サーパント)… (大きな)蛇・へび(文語)難
  • adder(アダー)… クサリヘビ・毒蛇(swamp adder で作中の沼毒蛇)難
  • recoil(リコイル)… はね返る・たじろぐ難
  • schemer(スキーマー)… 策略家・陰謀をめぐらす者難
  • thrust(スラスト)… 突き出した・押しやった(thrust の過去形・過去分詞)・突き出す難
  • dog-whip(ドッグウィップ)… 犬用の鞭難
  • noose(ヌース)… 輪になった縄・輪縄難
  • reptile's(レプタイルズ)… 爬虫類の(ここでは蛇の)難

次の場面:帰りの汽車で On the Train Home

長い一夜が明ける。ワトソンは、そのあとの出来事を手短に書きとめて、物語を締めくくろうとする。ストーナーさんは朝の汽車でハロウの叔母のもとへ送られた。翌日、ロンドンへ帰る汽車の中で、ワトソンはホームズから事件の筋道を聞くことになる。