Scene 02 · Notes

解説 場面 2「ありふれた帽子」

この場面の解説

ワトソンは、帽子が何か恐ろしい犯罪の手がかりだろうと考えるが、ホームズは笑って打ち消す。何百万もの人がひしめく大都会では、犯罪ではないのに奇妙な出来事がいくらでも起こるのだという。ワトソンも、最近記録した六つの事件のうち三つは法律上の罪と関係がなかったと認める。

表現・文法のポイント

homely as it looks
形容詞+as+主語+動詞 は「〜ではあるけれども」という譲歩の言い方で、Though it looks homely と同じ意味。形容詞を前に出して強めている。homely はイギリス英語では「飾り気のない・ありふれた」で、アメリカ英語の「器量のよくない」とは意味が違う。
within the space of a few square miles
within the space of は「〜の範囲のうちに」。square miles は「平方マイル」で、1 平方マイルは約 2.6 平方キロメートル。四百万もの人がわずかな広さに押し込められている、大都会ロンドンの人の多さを強調している。
many a little problem
many a+単数名詞 は「多くの〜」を表す、古風で文語的な言い方。many little problems とほぼ同じ意味だが、一つ一つを思い浮かべさせる響きがある。単数として扱うので、現在形なら is や has のように単数形の動詞で受ける。
So much so
相手の言葉を受けて「まさにそのとおりで、それどころか」と強く同意する言い方。後ろの that of the last six cases ... とつながり、「あまりにそのとおりなので、〜なほどだ」という so 〜 that の構文になっている。

背景・時代

大都会ロンドン(four million human beings)
当時のロンドンはすでに世界でも指折りの大都市で、ホームズが言うように数百万の人が暮らしていた。人が密集する大都会では、犯罪でなくとも奇妙な出来事が起きやすい、というのがホームズの考えだ。

全文の対訳

I seated myself in his armchair and warmed my hands before his crackling fire, for a sharp frost had set in, and the windows were thick with the ice crystals. "I suppose," I remarked, "that, homely as it looks, this thing has some deadly story linked on to it—that it is the clue which will guide you in the solution of some mystery and the punishment of some crime."

私は彼の肘掛け椅子に腰を下ろし、ぱちぱちと燃える暖炉の火で手を温めた。厳しい冷え込みが始まっていて、窓には氷の結晶がびっしりと張りついていたのだ。「思うに」と私は言った。「見たところありふれた帽子だが、これには何か恐ろしい話がからんでいるんだろう——何かの謎を解き、何かの罪を罰するための手がかりになるというわけだ」

"No, no. No crime," said Sherlock Holmes, laughing. "Only one of those whimsical little incidents which will happen when you have four million human beings all jostling each other within the space of a few square miles. Amid the action and reaction of so dense a swarm of humanity, every possible combination of events may be expected to take place, and many a little problem will be presented which may be striking and bizarre without being criminal. We have already had experience of such."

「いや、いや。罪などないよ」とシャーロック・ホームズは笑いながら言った。「ほんの数平方マイルの中で四百万もの人間が押し合いへし合いしていれば、どうしても起きてしまう、気まぐれでささいな出来事のひとつにすぎないのさ。これほど密集した人の群れが互いに作用し合えば、ありとあらゆる出来事の組み合わせが起こりうるし、犯罪ではないのに人目をひく奇妙な小さな問題も、いくらでも持ち込まれるだろう。そういう経験なら、私たちはもう何度もしてきたじゃないか」

"So much so," I remarked, "that of the last six cases which I have added to my notes, three have been entirely free of any legal crime."

「まったくだね」と私は言った。「私が記録に加えた最近の六つの事件のうち、三つは法律上の罪とはまるで無縁だったくらいだ」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • crackling(クラックリング)… ぱちぱちと音を立てる難
  • homely(ホウムリー)… 飾り気のない・家庭的な・(米では)器量のよくない難
  • whimsical(ウィムズィカル)… 気まぐれな・風変わりな難
  • jostling(ジョスリング)… 押し合っている難
  • amid(アミッド)… ~に囲まれて・~の中で難
  • combination(コンビネイション)… 組み合わせ
  • punishment(パニッシュメント)… 罰・処罰
  • incidents(インスィデンツ)… 出来事・事件(複数)

次の場面:守衛のピーターソン Peterson the Commissionaire

犯罪とは無縁の妙な出来事なら、これまでにもいくつも扱ってきた。ワトソンにそう言われて、ホームズはアイリーン・アドラーの件などを挙げ、今度のちょっとした一件もきっと同じ部類だろうと言う。そしてホームズは、この古い帽子にかかわる人物として、顔なじみの守衛の名を出す。