Scene 11 · Notes

解説 場面 11「ろうそくの染み」

この場面の解説

ホームズは、帽子に獣脂の染みが五つもあることから、持ち主が夜ごと、ろうそくを手に階段を上っていると推理する。ガスの明かりなら獣脂の染みはつかない、というわけだ。ワトソンは見事だと笑いつつ、罪も起きていないのに力の無駄づかいではないかと言う。

表現・文法のポイント

how on earth do you deduce
on earth は疑問詞のあとに置いて「いったい(全体)」と、驚きや強い疑問を表す。deduce は「推論する、導き出す」で、ホームズの推理を言うのによく使われる語だ。
no less than five
no less than + 数 は「〜も(の)」と、数が多いことを強調する言い方。一つや二つなら偶然でも、五つもあれば偶然とは言えない、という対比になっている。
the gas is not laid on
lay on はここで「(ガス・水道などを)引く、設ける」。受け身の the gas is laid on で「ガスが引かれている」。これはワトソンの問いの中の言葉で、ホームズはこのあと、持ち主の家の明かりはガスではなく獣脂ろうそくだと答えている。
save the loss of a goose
save はここで前置詞で「〜を除いて」(except)。古風で改まった言い方だ。「ガチョウ一羽をなくしたことのほかは」となり、たいした事件ではないというワトソンの気持ちが出ている。

背景・時代

獣脂ろうそく(tallow candle)
牛や羊の脂で作った安いろうそく。燃やすと煙やにおいが出て、溶けた脂が垂れやすかった。家にガスを引いて明かりにする家がある一方で、ろうそくの明かりで暮らす家も多かった。

全文の対訳

"You have an answer to everything. But how on earth do you deduce that the gas is not laid on in his house?"

「きみには何にでも答えがあるんだね。でも、いったいどうやって、彼の家にガスが引かれていないなんて推理したんだい?」

"One tallow stain, or even two, might come by chance; but when I see no less than five, I think that there can be little doubt that the individual must be brought into frequent contact with burning tallow—walks upstairs at night probably with his hat in one hand and a guttering candle in the other. Anyhow, he never got tallow-stains from a gas-jet. Are you satisfied?"

「獣脂の染みが一つ、いや二つくらいなら、たまたま付くこともあるだろう。だが五つもあるのを見れば、この人物がしょっちゅう燃える獣脂に触れているのはまず疑いないと思う——おそらく夜、片手に帽子を、もう片方の手に蝋の垂れるろうそくを持って、階段を上っていくのだ。いずれにしても、ガス灯の炎から獣脂の染みがつくことはない。納得したかね?」

"Well, it is very ingenious," said I, laughing; "but since, as you said just now, there has been no crime committed, and no harm done save the loss of a goose, all this seems to be rather a waste of energy."

「いや、実に巧妙だね」と私は笑いながら言った。「でも、きみがさっき言ったように、罪は何も犯されていないし、ガチョウ一羽をなくしたほかには何の害も出ていないのだから、こんなことはみんな、ちょっとした力の無駄づかいのように思えるよ」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • tallow(タロウ)… 獣脂(ろうそくなどの材料)難
  • guttering(ガタリング)… (ろうそくが)蝋を垂らしている・炎がゆらいでいる難
  • tallow-stains(タロウステインズ)… 獣脂の染み難
  • gas-jet(ギャスジェット)… ガス灯の火口・ガスの炎難
  • ingenious(インジーニアス)… 抜け目のない・巧妙な・独創的な難
  • individual(インディヴィジュアル)… 人物・個人・個々の
  • satisfied(サティスファイド)… 満足して
  • committed(コミッティッド)… (過ちを)犯した(commit の過去分詞)・献身的な

次は第 2 章「思わぬ知らせ」

帽子の話が一段落したところへ、守衛のピーターソンが顔色を変えて駆け込んでくる。拾ったガチョウのことで、思いもよらない知らせを持ってきたのだ。ホームズはすぐに事の重大さを悟り、帽子とガチョウの持ち主を探すため、新聞に広告を出すことにする。