Scene 35 · Notes

解説 場面 35「屋台の騒ぎ」

この場面の解説

いま離れたばかりの屋台から、大きな騒ぎが起こる。振り返ると、ネズミのような顔の小男が光の輪の中に縮こまり、商人ブレッキンリッジが戸口からこぶしを振り回している。ガチョウのことでしつこく付きまとうなと商人はどなり、一羽は自分のものだったと訴える小男を、プロシャの王様にでも聞けと追い払う。

表現・文法のポイント

I wish you were all at the devil together
I wish +過去形は、現実と違うことを願う仮定法過去。at the devil は「悪魔のところに」で、「みんなまとめてくたばっちまえ、消えちまえ」という乱暴な悪態。商人のいらだちが頂点に達していることが分かる。
I'll set the dog at you
set 〜 at ... は「〜(犬など)を…にけしかける」。If you come pestering me 〜 と条件を付けて、これ以上付きまとうなら犬をけしかけるぞ、と脅している。come pestering は「しつこく困らせに来る」で、come + -ing の形。
one of them was mine all the same
all the same は「それでもやはり」。あんたから買ったわけではない、と言われても、それでも 一羽は私のものだった、と食い下がっている。前の No; は商人の Did I buy the geese off you? への返事だ。
for all I care
for all I care は「私の知ったことではない」。you can ask the King of Proosia(プロシャの王様にでも聞け)と合わせて、誰にでも勝手に聞け、俺は知らん、と突き放す言い方になる。Proosia は Prussia のなまった発音をそのまま綴ったもの。

背景・時代

プロシャ(Prussia)
ドイツ北部にあった王国。当時のロンドンの庶民にとっては、遠い外国の偉い人の代表のような存在だった。「プロシャの王様にでも聞け」は、答えるつもりは無いというおどけた言い方だ。

全文の対訳

His remarks were suddenly cut short by a loud hubbub which broke out from the stall which we had just left. Turning round we saw a little rat-faced fellow standing in the centre of the circle of yellow light which was thrown by the swinging lamp, while Breckinridge, the salesman, framed in the door of his stall, was shaking his fists fiercely at the cringing figure.

彼の言葉は、私たちがいま離れたばかりの屋台で起こった大きな騒ぎに、不意にさえぎられた。振り返ると、揺れるランプが投げかける黄色い光の輪の真ん中に、ネズミのような顔をした小柄な男が立っていた。商人のブレッキンリッジは自分の屋台の戸口に立ちはだかり、縮こまるその姿に向かって激しくこぶしを振り回していた。

"I've had enough of you and your geese," he shouted. "I wish you were all at the devil together. If you come pestering me any more with your silly talk I'll set the dog at you. You bring Mrs. Oakshott here and I'll answer her, but what have you to do with it? Did I buy the geese off you?"

「あんたにも、あんたのガチョウにも、もううんざりだ」と彼はどなった。「あんたら、まとめてくたばっちまえばいいんだ。これ以上くだらねえ話でしつこく付きまとうなら、犬をけしかけるぞ。オークショット夫人をここへ連れてくりゃ相手をしてやるが、あんたになんの関わりがあるってんだ?俺があんたからガチョウを買ったか?」

"No; but one of them was mine all the same," whined the little man.

「いいえ。でも、そのうちの 一羽は、それでも私のものだったんです」と小男は泣きつくように言った。

"Well, then, ask Mrs. Oakshott for it."

「なら、オークショット夫人に頼め」

"She told me to ask you."

「あの人が、あなたに聞けと言ったんです」

"Well, you can ask the King of Proosia, for all I care. I've had enough of it. Get out of this!" He rushed fiercely forward, and the inquirer flitted away into the darkness.

「知ったことか、プロシャの王様にでも聞きやがれ。もうたくさんだ。とっとと失せろ!」商人が猛然と飛び出してくると、尋ねていた男はひらりと身をかわして闇の中へ消えた。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • hubbub(ハバブ)… 大騒ぎ・騒音難
  • rat-faced(ラットフェイスト)… ネズミのような顔をした難
  • cringing(クリンジング)… 縮こまっている・おびえて身をすくめている難
  • pestering(ペスタリング)… しつこく困らせている・うるさく付きまとっている難
  • whined(ワインド)… 泣きつくように言った・泣き言を言った・(犬が)くんくん鳴いた難
  • inquirer(インクワイアラー)… 尋ねる人・問い合わせる人難
  • flitted(フリッティッド)… ひらりと去った・すばやく飛び移った難
  • salesman(セイルズマン)… 商人・売り手・販売員

次は第 4 章「ベイカー街の夜」

市場の屋台で、小柄な男が商人に食い下がっている。男もまた、あるガチョウの行方を必死に探しているらしい。ホームズは男に声をかけ、馬車で暖かなベイカー街の部屋へ連れて帰る。暖炉の火が燃える居間で、ホームズは見知らぬ客と向き合う。