Scene 55 · Notes

解説 場面 55「夜の挨拶」

この場面の解説

ベイカー街の下宿の戸口で、通りがかった誰かがホームズの名を呼んで夜の挨拶をしていく。ホームズはその声に聞き覚えがあると首をかしげる。

表現・文法のポイント

Good-night, Mister Sherlock Holmes
Good-night は別れ際の挨拶で「おやすみなさい」。Mister を略さず書き、フルネームで呼びかけているのが妙に丁寧で、どこか挑むような響きもある。見知らぬ通行人がホームズの名を知っていること自体が不気味だ。
the greeting appeared to come from
appear to 〜 は「〜するように見える・〜らしい」。断定を避けた言い方で、ワトソンも声の主を確かめられなかったことが分かる。
a slim youth in an ulster who had hurried by
youth は「若者」。in an ulster の in は「〜を着た」。who had hurried by は過去完了で、挨拶が聞こえたときにはもう足早に通り過ぎていたことを表す。
staring down the dimly lit street
stare down 〜 は「〜の先をじっと見つめる」。dimly lit は「薄暗く照らされた」で、lit は light の過去分詞。ガス灯の明かりがぼんやり届く夜道の情景だ。

背景・時代

アルスター外套
アイルランドのアルスター地方の名を持つ、丈の長いゆったりした厚手のコート。ケープが付いたものも多く、旅行や寒い夜の外出に好まれた。体の線や顔つきを隠しやすい服でもある。
pavement
イギリス英語で「歩道」のこと。アメリカ英語では sidewalk という。アメリカで pavement と言うと舗装された車道を指すことがあるので注意したい。

全文の対訳

We had reached Baker Street and had stopped at the door. He was searching his pockets for the key when someone passing said:

私たちはベイカー街に着き、戸口の前で足を止めていた。彼がポケットの中の鍵を探っていると、通りがかった誰かがこう言った。

"Good-night, Mister Sherlock Holmes."

「おやすみなさい、シャーロック・ホームズさん」

There were several people on the pavement at the time, but the greeting appeared to come from a slim youth in an ulster who had hurried by.

そのとき歩道には何人か人がいたが、その挨拶は、アルスター外套を着て足早に通り過ぎていった、ほっそりした若者から発せられたようだった。

"I've heard that voice before," said Holmes, staring down the dimly lit street. "Now, I wonder who the deuce that could have been."

「あの声は前に聞いたことがある」とホームズは、薄暗い通りの先を見つめながら言った。「さて、いったい誰だったのだろうね」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • ulster(アルスタ)… アルスター外套(丈の長いゆったりしたコート)難
  • deuce(デュース)… (the deuce で疑問を強めて)いったい・悪魔(古風)・テニスのジュース難
  • pavement(ペイヴメント)… 歩道(英)・舗装道路
  • greeting(グリーティング)… 挨拶・挨拶の言葉
  • hurried(ハリッド)… 急いで行った・急いだ
  • staring(ステアリング)… じっと見つめている
  • wonder(ワンダー)… (I wonder で)〜だろうかと思う・驚き・不思議
  • dimly(ディムリー)… 薄暗く・ぼんやりと

次は第 3 章「あの女性」

翌朝、ベイカー街に国王が飛び込んでくる。写真のありかを突き止めたホームズは、国王とワトソンを連れてもう一度屋敷へ向かう。勝負はどう決着するのか。そして、ホームズがある女性をなぜ「あの女性」と呼ぶのか、その理由が明かされる。