Scene 52 · Notes

解説 場面 52「長い見張り」

この場面の解説

闇の中、ワトソンは音ひとつ聞こえなくても、連れが目を開けたまま緊張していることを感じ取る。窓の外では夜の鳥の声と猫のようなチーターの長い鳴き声がし、遠くの教区教会の時計が十五分ごとに鳴って、十二時から三時まで二人は黙って待ち続けた。

表現・文法のポイント

How shall I ever forget that dreadful vigil?
「忘れられるだろうか、いや忘れない」という修辞疑問。shall I は一人称の疑問で、ここでは文語調の響きを出す。ever は強調で「いつまでも」。vigil は寝ずの番のことで、緊張した一夜を象徴する語だ。
not even the drawing of a breath
not even ~ は「~さえ…ない」。the drawing of a breath は「息を吸うこと」で、呼吸の音すら聞こえないほどの静けさを表す。a sound の言い換えを重ねて、闇と沈黙の深さを強めている。
was indeed at liberty
at liberty は「自由の身で」。ここでは檻に入れられず、屋敷の庭に放されているという意味。indeed は「やはり確かに」で、ホームズの予想どおりだったと確認するニュアンスがある。
whatever might befall
whatever は「何が〜しようとも」の譲歩を表す関係詞。befall は悪いことが「身に降りかかる」意味の文語で、might を伴い「何が起ころうとも」となる。結果が見えない不安を含んだ表現だ。

背景・時代

教区教会の時計(parish clock)
イギリスの村は教区ごとに教会があり、その塔の時計や鐘が村の時刻を告げた。十五分ごとに鳴る時計は、夜が静かな田舎ほどよく響き、見張りの二人にとって時間の唯一の目安になっていた。

全文の対訳

How shall I ever forget that dreadful vigil? I could not hear a sound, not even the drawing of a breath, and yet I knew that my companion sat open-eyed, within a few feet of me, in the same state of nervous tension in which I was myself. The shutters cut off the least ray of light, and we waited in absolute darkness.

あの恐ろしい寝ずの番を、どうして忘れられようか。物音ひとつ、息づかいさえ聞こえなかったが、それでも連れが目を見開いたまま、私から数フィートのところに座り、私と同じように神経を張りつめていることはわかっていた。鎧戸がわずかな光さえ遮り、私たちは真っ暗闇の中で待った。

From outside came the occasional cry of a night-bird, and once at our very window a long drawn catlike whine, which told us that the cheetah was indeed at liberty. Far away we could hear the deep tones of the parish clock, which boomed out every quarter of an hour. How long they seemed, those quarters! Twelve struck, and one and two and three, and still we sat waiting silently for whatever might befall.

外からは夜鳥の鳴き声がときおり聞こえ、一度はちょうど窓のすぐそばで、猫のような長く尾を引く鳴き声がして、チーターが確かに放されていることを知らせた。遠くから教区教会の時計の低い音が聞こえ、十五分ごとに響きわたった。その十五分の、なんと長く感じられたことか。十二時が打ち、続いて一時、二時、三時と打っても、私たちは何が起こるのかと、黙って待ち続けた。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • vigil(ヴィジル)… 寝ずの番・夜通しの見張り難
  • open-eyed(オウプンアイド)… 目を見開いたままの・目を丸くした難
  • night-bird(ナイトバード)… 夜に鳴く鳥・夜鳥難
  • catlike(キャットライク)… 猫のような・しなやかな難
  • whine(ワイン)… (長く尾を引く)哀れっぽい鳴き声・泣き言難
  • parish(パリッシュ)… 教区(一つの教会が受け持つ地区)難
  • befall(ビフォール)… (悪いことが)身に降りかかる・起こる難
  • occasional(オケイジョナル)… ときおりの・たまの

次の場面:光と音 A Light and a Sound

鎧戸を閉ざした暗い寝室で、二人は黙って夜を待ち続けている。教区の時計は三時までを告げたが、何も起こらない。拳銃を手元に置いたワトソンは、ホームズの言いつけどおり眠らずに、暗がりの中でじっと耳を澄ましている。